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ジルウェート   第一章 Act.1


  大きな風が吹いた。 この風がもし地上に吹いたとするなら、スカートがめくれるなどというハートフルな事故では済まない。 砂塵が舞い、気を抜いていた人間は風に足を取られて転ぶだけでなく、目に砂が入る。 こんなに悲惨な話はない。  しかし、この風が吹いたのははるか紺色の上空。 小鳥も龍も飛んでいないこの空で吹いた風に、誰も気づく様子はない。 なら、先ほどの風に、吹く意味などあったのだろうか? Act.1 海に近い町。 昼間。 今日も、各家で昼食の準備をしていることだろう。 煙突から漏れる、白又は少し灰色がかった煙からはそれぞれの香りが流れ出ている。 立ち並ぶ家の中にひとつ、どう考えても他の家とは煙の排出量が違う煙突がある。 その家の上方だけに雷雲が発生しているようだ。 アウス 「    って、そんなわけあるかぁ!!!」 煙いっぱいの部屋に慌てて飛び込んできた茶髪の女の子。 アウス 「ウィン! あ、お邪魔します。  生きてるー!?」 今は、突如現れた彼女や、名前を呼ばれた「ウィン」というモノの解説などをしていられる状態ではないようだ。 茶髪の女の子はこの家の間取りを把握しているようで、即刻火元と思われるキッチンへ向った。 ウィン 「アウス〜…。 けほっ  大変だぁ〜」 アウス 「わかってるよっ! どこ?」 ウィン 「ここ〜」 視界の悪いキッチンの中を右往左往するアウス。 ウィンの声が下の方から聞こえることに気づくと、両手を下の方に泳がせた。 ウィン 「あ 痛っ!!」 ウィンのおでこにアウスの右手が直撃したようだ。 アウス 「あ、いた!!」 どうにかウィンを発見したアウスは、たった一人で無限増の煙と戦い続けた煙突の援護とばかりにあらゆる窓を全開にした。 アウス 「ウィン・・・。今回はなに?」 ウィン 「今回はね、 チャーハンっ!!」 アウスは、フライパンにこびりついた消し炭を見つめて溜息をついた。 この汚れを落とすには、丸2日かかりそうである。 それくらいなら買い換える。 でもそれだと、このフライパンがかわいそうなので、それはそれでバーベキューの炭にでも使いたい。 炭は、脱臭にも効果があるという。 なのでこのフライパンを出窓のスペースに置いておくと、気になる匂いもスッキリ…。 見栄えが悪い。 よそう。 しかも、 アウス 「 臭っ!!」 ウィン 「うるさい!」 アウス 「 で、そのチャーハンをどうしたらこうなったわけ?」 ウィン 「途中まではけっこういい感じだったんだよ。この前アウスに習ったみたいに、 初心者はタマゴごはんをフライパンに落とすってのをやったの」 アウス 「いい傾向だね」 ウィン 「でね、お手紙が来たからそれを読んでたんだよ」 アウス 「チャーハンは?」 ウィン 「忘れてた」 アウス 「・・・・・・・・・」 ウィン 「えへへ・・・」 アウス 「えへへ じゃないよ! ウィン、もうちょっとで自分が燻製になるところだったのよ?」 ウィン 「ごめんごめん…」 アウス 「謝られてもね・・・」 「困ったねぇ」とばかりに頭をかく、緑色の髪をこれまた緑のリボンで結わえた、 …失礼ではあるが、まだ善悪のつかない子供のような顔をした少女が、ウィン。 そんなボケィな妹に「困ったわ」とばかりに首をかしげるお姉さんのような女の子は、アウス。 一見、男の子のような髪型(これを本人に言うと、5分間程話してくれなくなる)で、黒縁の眼鏡をかけている。 ついでにいうと、二人の血はつながっていない。 ボケィな妹、とは、比喩である。 少しして、ウィンの小さな家からもくもくと湧き出る白煙に心配してか、周辺の住民も集まる。 おばさん「ちょっと、アウスちゃん、この煙どうしたの?」 アウス 「あ、おばさん。 こんにちは。 大丈夫ですよ、ウィンがまた料理しようとして」 おばさん「そうなの? ほどほどにさせてあげなさいよ」 アウス 「あはは・・・」 ウィン 「練習しなくちゃ上手になれないって、アウスが言ってたもん!」 まるでアル中もしくはヘビースモーカーのような言われように頬を膨らますウィン。 ウィン 「確かに、アウスがいない時に挑戦するのはどうかとおもったけど・・・」 おばさん「まぁ、なんでもなくて良かったわ。アウスちゃん、ウィンちゃんのことをよろしくね〜」 アウス 「ご迷惑おかけします」  アウス(一人暮らし)の家は、ウィン(一人暮らし)の家の隣にある。 さらに、年齢もウィンがアウスの一個下で近い、ということもあって二人はさながら幼馴染のような関係になっていた。 ウィン 「おなかすいた・・・」 アウス 「チャーハンがあれだもんね」 ウィン 「アウス。なんか作ってよ〜」 アウス 「あのね…。ウィン。 そろそろいろんなこと自分ひとりでできるようにならないとダメよ?」 ウィン 「うん」 アウス 「今日はまだ、お昼時でよかった。私もこれからご飯だったし、外の異変にもすぐ気付いた」 ウィン 「うん」 アウス 「でもこれが早朝やら深夜やらになってみなさい?   うだうだうだうだ・・・」 ウィン 「うん」 アウス 「ウィン! 話を聞きなさい」 ウィン 「お腹が空いて、力が出ない・・・」 アウス 「・・・・・・ふぅ、 やれやれ。  わかったわよ」   ウィンは、アウスが3歳になる誕生日にこの町へ来た。 というのも、引っ越してきたわけではない。 海から、今にも崩れそうな小さな箱舟に乗ってこの街の海岸に上陸したのだ。 その日は大雨で、だれもが自分の家の中に閉じこもっていた。 その頃まだアウスの側にいた両親は、アウスに「誕生日には海に連れて行って、遊ばせてやる」と、約束していた。 今まで、砂浜から遠くで眺めたことしかなかったアウスはとても喜び、その日を待ちわびた。 雨降りの誕生日。 アウスは駄々をこね、泣きじゃくって両親に海をせがんだ。 困り果てた両親は仕方なく、海へ連れて行き、うねる波を見せることにした。 傘をさして海へ向かった3人は、波間で揺れる箱舟を見つける。 そのなかで優しい顔で眠っていたのが、ウィンである。 隣の人の声も聞こえないような大雨の中で、のん気にもウィンは眠っていた。 その子を放っておくわけにもいかず、アウス達はウィンを引き取った。 余談だが、アウスの両親は、アウスに「この子がお前の誕生日プレゼントだ」などと言い、 その年の誕生日プレゼント代を浮かし、夢のマイホーム代への資金にした。 アウスはアウスでとても喜んだため、悪くは言えないが。 アウス 「で、チャーハンでいいのね?」 ウィン 「チャーハンがいい!!」 今では二人、お互いがいて当たり前の生活になっている。 アウス 「そういえば」 ウィン 「なに?」 アウス 「ウィンに届いた手紙って、なんだったの?」 ウィン 「さぁ・・・」 アウス 「さぁ・・・ って、読んだんじゃないの?」 ウィン 「うん、内容が難しくてよくわからなかったんだよ」 アウス 「見せてみなよ」 ウィン 「うん。 取ってくるよ」 ジュ――・・・ アウスがフライパンの上で香ばしい白米達を転がしていく。 この近隣では、アウスの作る料理は絶品で知られている。 ウィン 「取ってきたよ〜」 奥の方からひょっこりと顔を出し、おごそかに封筒に入った手紙を右手でヒラヒラさせた。 アウス 「ウィンに手紙が届くなんて珍しいこともあるんだね…」 ウィン 「そうだねぇ」 アウス 「しかも、封筒に入ってるなんて」 アウスは、料理をてきぱき進めながら流し眼気味にウィンの手紙を見る。 アウス 「ちょっと読んでみてよ」 ウィン 「読めないよ」 アウス 「アレ。 文字は習ったよね?」 ウィン 「僕が読める言葉じゃないんだよ。 外国語かな??」 アウス 「外国…?」 ウィン 「宛先も、僕の名前じゃないような、僕の名前のような・・・」 アウス 「ちょ・・・   見せて」 ウィン 「はいよ」 ・・・・・・ アウス 「   ・・・うん、大丈夫ね。 ウィン宛てだよ」 ウィン 「なんでわかるの?」 アウス 「 これはね、フォールの言葉なの」 ウィン 「フォールの? じゃあ外国語だ」 アウス 「うん… そうなるわ。 でも、おかしい。 フォールの人から手紙がここに届くわけ…」 ウィン 「チャーハン焦げるよ〜?」 アウス 「しかもこれって・・・」       ― アウス宅 ―  ウィンは、アウスに手を引かれて隣の家に入れられた。 隣とは、もちろんアウスの家である。 もちろん完成したチャーハンは、お皿によそってレンゲを刺して持ってきた。 アウスの家の中は、一見普通の小奇麗な部屋だが、奥に地下へ続く階段がある。 ウィンは小さな頃そこをお化け屋敷などと呼んだが、今は、ただの書庫だと分かっている。 アウスは、古めかしくもどこかアンティークを感じさせるその書庫にウィンを連れ込む。 椅子、机のホコリを大体ふき取ると、そこにウィンを座らせた。 アウス 「 この世界には、二つの知的生物が存在するわよね? 」 書庫にある本の内、何かを探しながらアウスはウィンに聞いた。 ウィン 「ちてきせいぶつ・・・」 アウス 「二つの人種よ」 ウィン 「うん…。 フォールとバンテ」 アウス 「私たちは、どっち?」 ウィン 「バンテ・・・」 アウス 「そう。基本的に「獣・昆虫・鳥類」これらがすべてフォールと呼ばれ、私たちのような「ヒト型」の生物を、バンテと呼ぶ」 ウィン 「そうだね」 アウス 「大陸の東側に住むのがバンテ。西側がフォール。いいわね?」 ウィン 「うん」 アウス 「現在のバンテとフォールの関係は?」 ウィン 「・・・う〜ん  」 アウス 「 敵対関係。  OK?」 ウィン 「それが言いたかったんだよ〜」 アウス 「第一におかしいのが、フォールの言語で、私たちバンテのもとに手紙が届くこと。 バンテとフォールの間では、交易が全く成されていないわけだし」 ウィン 「たしかに…」 アウス 「 …わかってるの…?     第二に、宛先がウィンであること」 ウィン 「それじゃあ、僕に友達がいないみたいじゃないか!」 アウス 「フォールに友達がいる?  私だっていないよ。 バンテとフォールの関係は最悪。  触れ合う機会なんて一切ないんだから」 ウィン 「あう・・・」 アウス 「あ、食べてていいのよ」 ウィン 「本当? いただきまぁす!」 アウス 「はい、召し上がれ」  わけのわからない話をされて頭の中がぐるぐるしていたウィンは、待ちわびた「よし」が出て、嬉しそうにチャーハンにかぶりついた。 アウスの方も、探し物が終わったようで、探していた本を広げた。 アウス 「やっぱり・・・・・・」 ウィン 「どうひたの?」 アウス 「口にものを入れて喋らない」 ウィン 「もご」 アウス 「第三におかしいのがこれ」 ウィン 「むぐ?」 アウス 「この文字、フォールの文字でもとても古いもの。下手したら、1000年以上前の文字かも」 ウィン 「もごむ」 アウス 「でも、郵便はちゃんと今日の日付だし、紙も新しい…。そう何千年も生きていられる生物がいるとも思えないし・・・」 ウィン 「  …まごもぐ…」 アウス 「・・・おかしい。 絶対おかしい」 ウィン 「・・・んごくっ。    いいから早く内容読もうよ」 アウス 「そうね。 その通り…」 アウスは早速、翻訳書と手紙を広げてウィンの隣に座った。 ウィン 「アウスはすごいなぁ…。 フォールの言葉が読めるなんて」 アウス 「バンテの言葉とほとんど同じよ。表記が違うだけ」 ウィン 「表記が違うから難しいんだけど・・・」 アウス 「もともとはみんな、同じ言葉だった。 なのに、誰が言ったのかしらね。 「俺とお前は違う」なんて。言葉は自由になり、愛も憎悪も、簡単に表現できるようになる。 だから、こういう風に私たちがお話できるのも言葉のおかげだけど、私たちの知らないどこかで争いが起こるのも、 みんな言葉のせいかもしれないわね」 ウィン 「 ・・・ごめん、難しいよ」 アウス 「大丈夫。 ウィンは、頭で理解するタイプの子じゃないから」 ウィン 「おバカさんってことですか?」 アウス 「そんなこと言ってないじゃない」 ウィン 「間接的にそう聞こえたよ」 アウス 「理解しようとしない人が一番おバカ。 理解しようとしてるウィンはまだいいの」 ウィン 「まだいい、 ってことは、ちょっとバカじゃん・・・」 アウス 「 ・・・「神の選定(デヴァン・ポート)」・・・」 ウィン 「ん?」 アウス 「・・・いや、なんでもないわ・・・。 アレ、眼鏡かけてるよね…?」 ウィン 「かけてるよ」 アウス 「ウィンに届く手紙に、「神」なんて言葉が出てくるはずないもんね」 ウィン 「だね」 アウス 「じゃあ、とりあえず、読むからね」 ウィン 「どぞー」 アウス 「「         突然の知らせ、まずお詫び申す。                 この度、或所にて「神の選定」が行われた。                 我々の選定により、あることが決定した。                 「スュード‐サリーポの町‐2丁目‐7 ウィン。                 貴方を、第二十一期 「ジルウェート」に任命する」                 神炎皇 ウリエル」……」 書庫。 アウス宅。 先ほど名前が明らかになったサリーポの町。 海。 空。 全てに響き渡りそうな勢いで、それは轟いた。 アウス 「えええええええぇぇぇえぇぇええぇぇえええぇぇ!!!!!!!!!!??」 ウィン 「えええええええぇぇぇえぇぇええぇぇえええぇぇ!!!!!!!!!!??」 第一章    END

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