ジルウェート 第一章 Act.3
??? 「 ……ジルウェート…」 重く、低い声が二人の背後に響く。 アウス 「!?」 ウィン 「?」 ウィンとアウスが振り返ると、気絶したはずのデス・フットの目玉が、こちらを見ていた。 ??? 「ただの ガキ、と踏ん でいたが… 多少は戦える者のようだ…」 アウス 「・・・? 喋れるの?」 ウィン 「口どこ??」 ??? 「 とに かく… この体では 限界 があ る 出 直 すと しよ う」 アウス 「ねぇ、なんなの?」 ウィン 「ねぇ!! 口どこなの??」 ??? 「…………」 アウス 「…………」 ウィン 「…………」 デス・フットの目玉は、また焦点を失った。 ウィン 「・・・変な奴だったね」 アウス 「・・・・・・・・・・・・・・・」 ウィン 「アウス?」 アウス 「・・・ジルウェートって、アイツ言ってたよね」 ウィン 「言ってた?」 アウス 「 ウィン。 もう一度、あの手紙について検討してみる必要がありそうよ」 Act.3 ― アウス宅・書庫 ― 二人はその場を去り、例の手紙がある書庫に戻った。 アウス 「「神炎皇 ウリエル」といえば、この大陸を見守る三神の一人」 ウィン 「うん」 アウス 「三神は、どの地域でも尊く崇拝されているのだから、普通はイタズラにその名は使わない」 ほんのわずかの文しか書いていない手紙を何度も読み返すアウス。 時々裏側も見るが、そのたびに白い紙面と向き合う。 アウス 「フォールが、こんなバンテの端っこの町までやってきた。 その時点で大きな事件なのに…」 アウスはそう言いながら、ウィンの方を見た。 先ほどデス・フットにとどめを刺したウィンの杖「フウハク」。 本当に久々の再会なのだろう。 ウィンは、フウハクと抱き合ってアウスの話など全く聞いていない。 アウス 「ウィン。 あなたの話をしてるのよ!」 ウィン 「え、あぁ。 ごめんごめん…」 アウス 「ウィンがジルウェートに選ばれたという手紙。 突然現れたデス・フットが言ったジルウェート…。 偶々、なんて考え難いわよね」 ウィン 「手紙は、イタズラじゃないってことかな?」 アウス 「…… …そう考えるのが一番現実的ね」 ウィン 「ジルウェート、かぁ」 アウス 「 …… ウィンが… ね。 三神は、一体どういう基準でジルウェートを決めてるんだろう…。 クジとか?」 ウィン 「で、 さぁ…」 ウィン 「ジルウェートって、何だっけ?」 アウス 「ウィン。 何回も教えたよね?大切なことだから、って」 ウィン 「だって、アウスの説明わかりにくいんだもん…。どんどん話がずれてくし…」 アウス 「ジルウェートって言うのは、二つの種族の監視を行う存在よ」 ウィン 「人の話を無視するのはいけないことだと思うなぁ!!」 アウス 「四年に一度、バンテから一人フォールから一人、「神の選定」によって選ばれる」 ウィン 「こらー!!」 アウス 「任期も4年で、仕事はただ、バンテとフォールが争わないように監視すること」 ウィン 「……」 アウス 「簡単に説明するとこれだけだけど、何故両種族から一人ずつ選出するかというと…」 ウィン 「それ!!」 アウス 「なにが?」 ウィン 「そうやって話がずれてくんだよ…」 アウス 「あぁ、ごめん…。 で、ジルウェートについてはわかったの?」 ウィン 「わかったけど…。 じゃあ、これから僕は何をすればいいの?」 アウス 「え?」 ウィン 「この手紙の通り、僕がジルウェートになりました。 で、何をすればいいの??」 アウス 「…………」 ウィン 「…………」 アウス 「わからない」 ウィン 「だよね」 アウス 「いろいろな文献を読んできて…、ジルウェートについて勉強してるけど、 新しいジルウェートにこんなにユルイ感じで通達が来るなんて思わなかったから…」 ウィン 「う〜ん…」 アウス 「なんかもっと、空が割れて、そこから三神が ぐわぁっ と出てきて、「お前は今日からジルウェートだ」 とか何とか言って連れさられて、不思議な力を授かったりするものかと」 ウィン 「でも、ここに居たらまた、さっきのめんたまみたいなのが来るんじゃない?」 アウス 「………」 ウィン 「めんたまくるよ」 アウス 「そうね。 ウィンをジルウェートだと分かってたし、きっとウィンを狙ってたんだわ」 ウィン 「僕、何か悪いことしたかなぁ」 アウス 「なんで、ジルウェートを襲ったのかな、デス・フットは」 ウィン 「さぁ…」 アウス 「フォール側の新しいジルウェートの差し金… は少し早すぎるか。 それなら…なに?」 ウィン 「わかんないけど、とりあえずここに居たらまずいとおもう」 アウス 「私もそう思う。 この街の人たちに迷惑がかかるしね…。 今回は、デス・フットで済んだけど、私たちでも敵わないような敵が攻めてきたら…」 ウィン 「 旅だ!! 」 アウス 「ウィン…。 気持ちはわかるけど、あなたは常に狙われてるかもしれない。 どの町に行っても同じだよ」 ウィン 「このままここに居てもしょうがないし、ジルウェートになったんだから、こんなバンテの端っこにいたんじゃ意味ないよ」 アウス 「……。 ウィン、あなたジルウェートの仕事、やるつもりなの?」 ウィン 「だってジルウェートだもん」 アウス 「…まだ100%そう決まったわけじゃないけどね」 ウィン 「ケンカを止めるくらい、どってことないよ〜」 アウス 「ケンカ、 なんて話じゃない。 …今は確かにだいぶ収まって、たがいに干渉し合っている状態だけど… これは戦争だよ」 ウィン 「せんそう…」 アウス 「人が大勢死んでる。 正直言って悪いけど、ウィンが簡単に受けられる仕事じゃないのよ、ジルウェートは」 ウィンの目をじっと見つめ、真剣な表情をみせるアウス。 サリーポは、フォールの地域とかなり離れた場所にあるため、フォールからの進撃などはほとんどない。 しかし、アウスは新聞や本などで、気が遠くなるような年月、延々と続いてきたバンテとフォールの戦争を見てきた。 それがどれほど悲惨で、悲しみを生み、憎しみを生み、今この時間まで辿り着いているか、知っていた。 アウス 「いったいどんな理由で戦争が始まったのかはわからない。 もしかしたら、「姿形が違うから」なんて簡単な理由じゃなかったかもしれない。 だけど、今戦っている人間たちには、当初の「理由」のために戦っている人なんていない。 何千年も前の事よ。 誰かの敵を討つために、憎しみのために戦っているだけ。 だけど、その憎しみは、簡単に取り払えるものじゃない!!」 ウィン 「………」 アウス 「憎しみを癒す方法なんて、 もう時間くらいしかない。 今のこの冷戦状態が、何百年と続くことが、最善…」 ウィン 「アウス」 アウス 「そう思って神様たちはジルウェートを作ったのよ…。 なのに、なんで、ウィンが……」 ウィンを見つめていたアウスの目が下を向き、顔もうつむいた。 ウィン 「 …アウス!!! 」 アウス 「!?」 ウィン 「ひどいよ、アウス…」 アウス 「・・・?」 ウィンは、いつの間にか半ベソをかいていた。 今にも泣きだしそうな目で、アウスを逆にじっと見つめていた。 ウィン 「わかってるよ…。 だって…、僕たちのお父さんとお母さんは…」 アウス達の両親は、6年前にサリーポにも訪れたフォールの進軍により、 死んでいた。 どうにか戦火を抜けたサリーポはその後復興に向けて再出発し、最近やっと昔通りの生活に戻ってきていた。 アウス 「 ウィン…」 ウィン 「アウスが前から言ってたよ…。 人を憎んじゃダメだって。 でも、憎むことを止めない人たちを見捨てちゃダメだって」 アウス 「ウィン、でもね…。 ジルウェートは、二つの種族の仲介なの。 どちらの種族も、あなたの敵になるかもしれないのよ?」 ウィン 「いい…」 アウス 「今日みたいなことが、毎日起こるかもしれないのよ」 ウィン 「いい」 アウス 「ずっと遠くまで、旅をしなくちゃいけないかもしれないよ?」 ウィン 「いい」 アウス 「もしかしたら、無事でいられないかもしれないんだよ!?」 ウィン 「いい!!!」 アウス 「よくない!!!!」 書庫に、張りつめた空気がザラリと流れた。 二人とも目に涙を溜め、必死に話している。 アウス 「ウィンが無事じゃなかったら、私はよくないよ!!」 ウィン 「でも、僕たちみたいな思いをする人を、一人でも救えたら!」 アウス 「それでウィンが死んじゃ意味ないでしょ!! ジルウェートは本当に危険なの!!」 ウィン 「じゃあどうするの!? ジルウェートは、辞められるの!!?」 アウス 「…それは」 ウィン 「そんな簡単にやめられるの? どうやって?」 アウス 「…わからないけど……」 我慢していたアウスの目の涙がこぼれる。 それに気づいてアウスはすぐにセーターの袖で拭う。 アウス 「 …ウィンが心配なのよ……」 ウィン 「 アウス…」 アウス 「本当に… ウィンがジルウェートで… 世界を旅するんなら… 私も行くよ…」 ウィン 「え?」 アウス 「ウィン、ロクにご飯も作れないじゃない… 旅なんて、一人じゃ無理…」 ウィン 「………」 アウス 「 サリーポからは出よう…。 三神…神炎皇 ウリエルを探すの…」 ウィン 「 うん… 」 アウス 「私はそこで、ウィンがジルウェートを辞退できないか聞く…」 ウィン 「………」 アウス 「いい?」 ウィン 「うん」 アウス 「……………」 やっと涙もおさまり、平常通りの思考回路が戻ったアウス。 ウィンに見せた顔が恥ずかしかったのか、ウィンから顔をそらした。 アウス 「私は、ウィンがジルウェートになるのは反対なの」 ウィン 「わかってるよ〜」 こうして二人の少女は、旅立つこととなった。 この後、サリーポではアウスとウィンを送り出す小さなパーティが開かれたが、その様子は伝えるほどのものではない。 サリーポの住人は、ウィンが「ジルウェート」になったということは知らない。 しかし、イル大陸のどれだけの人物がそのことを知っていて、 その中でどれだけの人物が、ウィンを狙っているのか。 アウスはそれだけが心配だった。 つづく