ジルウェート 第一章 Act.4
アウス 「ウィン、ロクにご飯も作れないじゃない… 旅なんて、一人じゃ無理…」 ウィン 「………」 アウス 「 サリーポからは出よう…。 三神…神炎皇 ウリエルを探すの…」 ウィン 「 うん… 」 アウス 「私はそこで、ウィンがジルウェートを辞退できないか聞く…」 ウィン 「………」 アウス 「いい?」 ウィン 「うん」 アウス 「……………」 やっと涙もおさまり、平常通りの思考回路が戻ったアウス。 ウィンに見せた顔が恥ずかしかったのか、ウィンから顔をそらした。 アウス 「私は、ウィンがジルウェートになるのは反対なの」 ウィン 「わかってるよ〜」 こうして二人の少女は、旅立つこととなった。 この後、サリーポではアウスとウィンを送り出す小さなパーティが開かれたが、その様子は伝えるほどのものではない。 サリーポの住人は、ウィンが「ジルウェート」になったということは知らない。 しかし、イル大陸のどれだけの人物がそのことを知っていて、 その中でどれだけの人物が、ウィンを狙っているのか。 アウスはそれだけが心配だった。 Act.4 アウス 「クリミネル活火山」 ウィン 「クラリネットおっかさん?」 アウス 「クリミネル活火山!!!!」 ウィン 「が、どうしたの??」 アウス 「ここに、神に関する書籍がある」 アウスが手を置いた場所には、数十冊の本の山があった。 アウス 「三神は、各自が各場所を統治するかのように点在している。ウリエル以外の神に関しては、どちらもフォールの領域…ノールにいるから詳しい情報はない」 大量にあるうちの一冊をアウスは手に取り、パラパラとページをめくる。 黄色の付箋が貼ってあるページを見つけると、それをウィンに広げて見せた。 そこには、巨大な火山が描かれた挿絵がある。 「 ―イル大陸 北東部 クリミネル活火山― イル大陸に存在する火山の中で、唯一活火山として存在する山である。 現在、異常なほど早いスパンで噴火を起こしているが、ふもとの町などへの被害は全く出ていない。 この奇跡的な現象を周辺住民は「ウリエル神の護り」と呼んでいる。 古来からこの火山には三神の一人、ウリエルが住んでいると云われ、彼が住民を溶岩から守っているという。 その伝説が真実である保証はないが、数々の統計の結果、決して事実無根の噂ではないことがわかっている。 」 アウス 「確実、とまではいかないけど… この本と全く同じ内容をもつ本がこんなにあるのよ。」 アウスのまとめた本のすべてが、ウリエルとクリミネル火山の関係性を表記した本だ。 その中には、最近のものから、表紙がはがれて落としただけでバラバラになってしまいそうな古い本まである。 逆に、ウリエルが他の場所に存在しているという記事はほぼない。 この書籍等が、これからのウィン達の旅の目的地を決めた。 アウス 「ウリエルに会いに行くなら、この火山に向かうしかないと思うの」 ウィン 「そうだね〜。 アウスがそういうならそうだよね〜」 アウス 「こらこら、適当にならない…」 ウィン 「適当にはなってないよ。 アウスの情報に従うってことさ」 アウス 「まぁ、とにかく向かうのはクリミネル火山。 いいね?」 ウィン 「うん」 案外早く片付けは終わるもので、必要なものをすべて大きなリュックに詰め込んだ。 綺麗好きのアウスは、最後 とばかりに隅々まで部屋を掃除し、ウィンはその横を素通る。 アウス 「あっ! そこさっき掃除したのに!」 ウィン 「もうすぐここからは出るんだよ? 掃除なんてしても意味ないじゃーん」 アウス 「帰ってきたときに気持ち良く休めるようにだよ」 ウィン 「そんなことより、もう荷物の準備はできたの!?」 アウス 「ウィンじゃないんだから、そんなのもうできてるよ〜」 ウィン 「え〜!? 僕まだできてないのにっ!!」 アウス 「じゃあさっさと準備しなさい! 夜のうちにはもう出るよ」 ウィン 「は〜い」 ウィンはテコテコと歩いてアウスの家の玄関を出た。 急に部屋中が静かになった。 アウスは一旦手を休め、リビングのソファに腰かけた。 懐かしくも、日常的なこの部屋の風景を、アウスは眺めた。 数日前、 カレーをウィンと一緒に食べたことを思い出した。 おいしいおいしいと、うるさいほどアウスのカレーを褒めた。 数週間前、 今日のようにウィンがキッチンでボヤを起こしたことを思い出した。 あの時は煙で、逆にゴキブリ退治ができた。 数か月前、 今座っているソファを買ってきてここに置いたときのことを思い出した。 ウィンにも手伝ってもらったが、そのせいで玄関の柱とソファに小さな傷がついた。 数年前、 父親と母親がいない寂しさから、ウィンが泣き出してしまったことを思い出した。 あの時は、アウスも我慢できなくて泣いてしまった。 アウス 「お父さん。 お母さん。 …いってきます」 ウィン 「準備できたよっ」 アウス 「 …あ、うん!」 月が出た。 雲のほとんどない晴れた夜。 いや、 晴れた という表現はおかしい。 日は出ていないし、空は怖いほど遠くまで透きとおり、暗い。 星も照らすが、空全体を明るくするには全く足りない。 そんな暗闇の中、 二人は、サリーポを一望できる丘の上にやってきた。 柔らかい夜風が追い風か向かい風か、それよりも二人は、二人の出会った海を眺めた。 ウィン 「早く行こうよ、アウス」 アウス 「うん」 ウィン 「めんたまがくるよ?」 アウス 「来たら、前みたいに戦えばいいよ」 ウィン 「 …ここには、また戻ってくるじゃん!」 アウス 「ジルウェートを辞められなかったら戻ってこれないかもよ」 ウィン 「そうだけど…」 アウス 「いこう」 ウィン 「あり、アウス??」 アウス 「ほら」 ウィン 「アウス〜、怒らないでよ〜!」 アウス 「怒ってないよ…」 ウィン 「……… そっかぁ」 アウス 「ウィン」 ウィン 「ん?」 アウス 「行くよ」 ウィン 「う、うん… …??」 二人は、サリーポの町を出た。 アウスの持っているインスタントのランプが辺りを照らす。 綺麗なガラスの中で揺れる炎は、ある種ではロマンティック、ある種ではホラーとも取れるような、フラフラと力ない燃え方をしている。 サリーポの北を目指し、旅をすることになった二人。 先には、似たような草原の風景が遠々と広がり、目的もなく歩きたくなるような道ではない。 先のほうに、山が見えるようにも感じるが、それが本当に目的地の火山なのかは定かではない。 ウィン 「あの、くり…クリ…クリねる…」 アウス 「クリミネル活火山?」 ウィン 「そう、それ! それって、どんなところなの?」 アウス 「そうね…。 周辺の町では、火山で取れる溶岩を使って金属製品を作ったりとか、家を造ったりとか…。 サリーポとは全く違う感じの町だと思うよ」 ウィン 「そうなんだぁ。 なんだか楽しみだね」 アウス 「実際、サリーポの外には出たことなかったからね…」 ウィン 「うんっ!」 アウス 「それに、こんな夜。 ウィン、怖くない?」 ウィン 「バカにしてもらっちゃ困るよぉ〜。 僕だってもう大人!なんだからっ 」 アウス 「じゃあ、しがみつくのやめなさい」 ウィン 「! …ほら…、 真っ暗で危ないし…」 アウス 「ランプがあるでしょ」 ウィン 「だけどォ…」 アウス 「まったく…。 旅の始まりくらいビッとしてられないの?」 ウィン 「でもォ…」 ォオオォォォ… ウィン 「! アウス、風が来るよ〜」 アウス 「え?」 ドオオォォォォオオォォォ!! 木々がバラバラと音をたて、草原が波をたてた。 アウスとウィンの体に、巨大な空気の塊がぶつかる。 アウス 「っ! 大きい風…」 ウィン 「あ、鳥だよ」 アウス 「鳥?」 巨大な翼。 アウス達から月を隠し、視界を塞ぐ。 強風の中でよく見えないが、二階建ての家ほどの身長をもっている、怪鳥が上空に現れたのだ。 轟音のままに、巨大な怪鳥はアウス達の上を通り過ぎた。 とてつもない風を巻き起こしながら、東に落ちる月と真逆の方向へ飛んで行く。 逆光で分からなかったが、その怪鳥は全身が不気味な茶色で、赤く不気味に光る眼をもっていた。 唖然としたアウスとウィンに凪が訪れ、静かな夜の風景は元の状態に戻った。 ウィン 「 ぷぃ〜…。 でっかい鳥だねぇ…」 アウス 「タクヒ…」 ウィン 「アウス…。 意味のわからない言葉をコソッ て言うのやめてよ」 アウス 「あの鳥の名前だよ」 ウィン 「そうなの??」 アウス 「不幸を呼び出す、怪鳥よ」 ウィン 「うわぁ…。 最悪じゃないか…」 アウス 「…そうね。 旅に出たとたんにタクヒに遭遇するとは思わなかった…」 ウィン 「テンション下がったね…」 アウス 「下がった…」 ウィン 「やめておこうか、今日は」 アウス 「こら…。 暗いのが怖いからって逃げちゃダメよ!」 ウィン 「だって、不幸を呼ぶんでしょ〜〜?」 アウス 「一度会っちゃったら、行っても戻っても一緒だよ!」 ウィン 「ええ〜〜〜〜〜〜???」 アウス 「わがまま言わないで来るの!!」 ウィン 「うわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!」 ウィン 「あっ! 風が来るっ!!」 アウス 「まじ??」 ウィン 「嘘でぇす」 アウス 「ウィ〜〜〜〜ン〜〜〜〜っ!!!」 ウィン 「こっちこっちぃ!」 アウス 「まてぇ!!」 静かな夜の草原に、たった二人。 誰もいないこの場所で、楽しく大声で騒いでも、蝿が飛ぶほどの音も聞こえない。 第一章 END