ジルウェート 第二章 Act.1
ウィン 「 ぷぃ〜…。 でっかい鳥だねぇ…」 アウス 「タクヒ…」 ウィン 「アウス…。 意味のわからない言葉をコソッ て言うのやめてよ」 アウス 「あの鳥の名前だよ」 ウィン 「そうなの??」 アウス 「不幸を呼び出す、怪鳥よ」 ウィン 「うわぁ…。 最悪じゃないか…」 アウス 「…そうね。 旅に出たとたんにタクヒに遭遇するとは思わなかった…」 ウィン 「テンション下がったね…」 アウス 「下がった…」 ウィン 「やめておこうか、今日は」 アウス 「こら…。 暗いのが怖いからって逃げちゃダメよ!」 ウィン 「だって、不幸を呼ぶんでしょ〜〜?」 アウス 「一度会っちゃったら、行っても戻っても一緒だよ!」 ウィン 「ええ〜〜〜〜〜〜???」 アウス 「わがまま言わないで来るの!!」 ウィン 「うわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!」 ウィン 「あっ! 風が来るっ!!」 アウス 「まじ??」 ウィン 「嘘でぇす」 アウス 「ウィ〜〜〜〜ン〜〜〜〜っ!!!」 ウィン 「こっちこっちぃ!」 アウス 「まてぇ!!」 静かな夜の草原に、たった二人。 誰もいないこの場所で、楽しく大声で騒いでも、蝿が飛ぶほどの音も聞こえない。 Act.1 ウィン 「おなかすいた」 アウス 「我慢しなさい」 東から昇る赤い陽が草原の二人を照らす。 何時間ここを歩いただろう。 夜が明けてからもしばらくの間こうして、クリミネルとサリーポを繋ぐうっすらとした道を進んでいるが 少し先に大きな丘があるせいなのか、一向に果ては見えない。 ウィン 「おなかすいた」 アウス 「我慢しなさい」 さっきからこの会話が何度繰り返されたことか。 ウィンが間食もなしに朝ごはんを我慢できるはずはない。 それを一番わかっているアウスがそれを頑なに拒んでいる。 ウィン 「いつ食べられるんだよォ〜。 このままじゃ死んじゃうよォ〜…」 アウス 「しかたないでしょ。私たちが今、クリミネルにどれだけ近づいているか分からないんだから」 ウィン 「つかれた〜。 おなかすいた〜。 眠い〜」 アウス 「ジルウェートはきっともっと辛いよ?」 ウィン 「ジルウェートにはならないんじゃないの〜??」 アウス 「帰る時もこの調子って考えると、今から切なくなるわよ…」 ウィン 「もうやだ! お腹空いて力が出ない! ぼくはご飯を食べるまでここから動きません!」 アウス 「ウィン…」 ウィン 「お弁当! お弁当〜!」 アウス 「わかったよ…。 目的地が見えたら休憩ね」 ウィン 「ごはんもそこで食べる?」 アウス 「食べる食べる。 私もさすがに疲れてきたし」 ウィン 「うぇ〜い! じゃあ善は急げだっ!」 アウス 「あからさまに元気になるなぁ」 ウィンは、アウスを抜かしてすたすたと先に進む。 ウィン 「アウス〜。 なぁにボサっとしてるんだよぉ。 はやくおいで〜」 アウス 「はいはい…」 さっぱりとした溜息をついて、アウスもウィンに追いついて歩き出した。 右に大きな森がある。 しかし、二人の辿る道は森の外側を沿うように引いてあるため、とくに干渉はしなかった。 好奇心から、なんとなく森の奥の方を眺めるウィン。 食べられるような食用花や草がないかと森の奥の方を眺めるアウス。 二人、同じ方向を見ながら無言で歩いている様子は、はたから見れば滑稽であるが、その「はた」がいなかった。 風で木々が擦れ合い、サラサラと心地のよい音がする。 小鳥のさえずるような音も聞こえる。 アウスがある雑草に近づき、それをよく観察し、ウィンにこう言い放った。 アウス 「ウィン。 この草食べられるよ」 ウィン 「なんで弁当があるのに草を食うかぁ…」 アウス 「ウィンにツッコミされた」 ウィン 「ねぇ、森ってクマが出るんだよね?」 アウス 「クマ? そんなことより草、騙されたと思ってさぁ」 ウィン 「クマさんってめちゃくちゃ強いんだよね?」 アウス 「ウィン、緑のものもちゃんと摂らないとだめだよ」 ウィン 「だから、クマさんに会わないように歌を歌おうよ」 アウス 「草を食べようよ」 ウィン 「クマの歌を歌う!」 アウス 「草!」 ウィン 「クマ!」 アウス 「草!」 ウィン 「クマ!」 アウス 「草!」 ウィン 「クマ!」 アウス 「草!」 ウィン 「クマ!」 そのとき、いつの間にここまで来たのか、荷車を引いたおじさんが二人の横を通りすがった。 別にこちらを見ていたわけでも無かったが…。 アウス 「…………」 ウィン 「クマ!」 アウス 「すっごい恥ずかしい…」 ウィン 「くま?」 草が先かクマが先か、のくだらない討論をこんな道っぱたで繰り広げているのを他人に聞かれてしまった。 そのことはアウスにとって相当なショックであった。 ウィン 「そんなときは、歌おうよ」 アウス 「…わかったよ…。 歌う。 歌えばいいんでしょ…?」 ウィン 「さん、はい! ある日〜 森の中〜 クマさんに〜 出会った〜♪」 アウス 「ある日〜 森の中〜 クマさんに〜 出会った〜…」 そして、アウスはこのあと衝撃の事実に気づくことになるのだった…。 ウィン 「あらクマさん ありがとぉ お礼に 歌いましょ♪」 アウス 「こっ…」 ウィン 「ラララ ラララララ〜♪ ラララ ラララララ〜♪」 アウス 「こっ…」 ウィン 「アンコール! アンコール!」 アウス 「こっちの方が恥ずかしい…!!」 ウィン 「アウス?」 アウス 「今すぐ歌うのをやめなさい…。 また誰か来たらどうするの…」 ウィン 「一緒に歌いましょ〜♪」 アウス 「そんな暇な奴いるわけないでしょ…」 ウィン 「そうかなぁ…」 アウス 「……まぁでも、 やっと一休みできそうだよ」 ウィン 「え?」 アウスの指をさした方角には、高く険しい岩山があった。 まだぼやけた様な風景でしかないが、確実に周りの山々とは常軌を逸している。 決定的なことに、頂上付近からは灰色の煙が火事のように立ち込めている。 ウィン 「あ、あれってもしかして…?」 アウス 「クリミネル活火山…かも」 ウィン 「かも?」 アウス 「…いや、地図の方角もピッタリだね。あれこそが私たちの目的地」 ウィン 「ということは… ということは…」 アウス 「休憩ね」 ウィン 「やったああぁぁぁ!!!!」 アウス 「喜びすぎ。 とりあえずいい感じの場所探そうか」 ウィン 「そんな時間はない〜! もう、お腹空きすぎて逆に大丈夫になりかけてるんだからね!」 アウス 「なによ、その状態」 ウィンは背負っていたリュックを地面に下ろし、楽しそうに中を物色し始めた。 ウィン 「おべんとおべんと〜♪」 アウスも、肩をすくめながら木の幹に腰掛けて、自分のリュックを覗いた。 ??? 「ぎゃああぁぁ―――っ!!!」 ウィン 「ギャ――!!」 アウス 「な、なに!?」 何者かの叫び声は森の方からした。 その叫び声がしてから、木の枝が折れたり、葉っぱを掻き分けたりする音が鳴りやまない。 アウス 「ウィン、気をつけて!」 ウィン 「お弁当は…?」 アウス 「とりあえず後で! さっきの声の主を確認してから」 ウィン 「ぶー……」 しかたなくリュックを閉じるウィン。 アウスはリュックをまた背負い、念のため、と包んであった魔法の杖を取り出し、構えた。 アウス 「ウィン。 フウハクを出しておきなさい」 ウィン 「なんで〜?」 アウス 「何か危険なものかもしれないでしょ」 ウィン 「そっか」 ウィンも、背中に差してあったフウハクをかっこよく構えた。 ガサガサ… バキっ ミシ… 何かが暴れるような音は、次第にこちらに近づいてくるような気がする。 それが何なのかが全く分からない分、恐怖というか、緊張がアウス達の身を打った。 アウス 「 ――――!!」 バタバタバタ… 小鳥たちが一斉に森から離れていく。 それによって、森の騒然とした雰囲気が伝わってくる。 ??? 「ぎゃあ――っ! 助けて―――!!!」 アウス 「! ウィン!」 ウィン 「うん!!」 二人は、少年が泣きじゃくるような情けない声のした方へ走りだした。 ウィン 「あ!」 走り出したとたんに、木々の隙間からチラチラと何かが見えた。 せわしなく右往左往するそれは、猫一匹ほどの大きさの生き物であった。 しかし、背中には自分の体ほどの大きな翼が生えており、それをコウモリのようにパタパタと動かし、空を飛んでいる。 さらに、頭には長細い角が生えていて、短い前足にはガッチリとこれまた大きなドングリを抱えている。 アウス 「あ、あれ!? あれってフォール!?」 ウィン 「アウス! クマさんだ!!」 ウィンの示す方。 その「飛び猫」の奥には、鬼の形相をしたクマが猛進してきていた。 大きさにして、2mはあろうかという巨体である。 アウス 「こりゃまずい…。 どうしようか??」 ウィン 「僕たちは触れない方がいいかな…」 アウス 「…そうね。 隠れよう」 飛び猫 「ちょっと! そこのバンテさん! 助けてくれっ!!」 うわぁ…。 二人は同時に肩をガックリと落とした。 アウス 「助けるって、どうやって?」 アウスは、なるべく冷たい口調でそう聞いた。 相手もバンテの言葉を喋れるのだ。 バンテの言葉で通じるだろう。 飛び猫 「コイツ、俺のこと食おうってんだ! 絶対そうだぁ!」 アウス 「弱肉強食でしょ? 残念だけど無理」 ウィン 「ごちそうさまでした」 アウス 「それを言うなら、ご愁傷さま」 飛び猫 「このやろぉ…!!」 飛び猫は何を思ったかアウスとウィンのもとへパタパタと飛んでくる。 もちろん例のオオグマは飛び猫を追いかけてくる。 アウス 「ちょっ、ちょっと! こっちこないでよ!」 飛び猫 「オイラには仕事があるんだよォ!!こんなところで死んでたまるか!!」 アウス 「私たちだって仕事があるのよ! こんなところでは…」 飛び猫 「オイラは、新しいバンテのジルウェートをウリエル様の所に連れていくんだぁ!!」 アウス 「え?」 飛び猫 「このままオイラが死んだら、ジルウェートはどうなるんだぁ!!」 アウス 「ねぇ、飛び猫! それ本当!?」 飛び猫 「飛び猫じゃねぇ! なんだ飛び猫って! オイラは「コロン」ってんだ! デーモンビーバのコロンだぁ―!!!」 アウス 「Fendre!!!」 アウスが杖をオオグマに向かって振り、その瞬間、杖の周りに魔法陣が生まれた。 クマの面前に、竜の牙のように巨大な大岩が突出する。 コロン 「うわっち!!?」 クマは岩を顔面に叩きつける形となり、猛進した勢いはなくなった。 アウス 「……」 ウィン 「……」 しばらくしらけた後、オオグマは力なくバッタリと倒れた。 どうやら気絶してしまったようだ。 ウィン 「アウス、すごぉい! 熊殺し〜〜」 アウス 「気絶してるだけだって…。 クマはオデコが弱点なの」 ウィン 「へぇ〜」 コロン 「ちょ、アンタ危ないよ…。 オイラにも当たるところだっただろ!」 アウス 「クマに食われるよりはいいでしょ。 あなた、コロンっていうのね? 私はアウス」 ウィン 「ぼくはウィンだよ」 コロン 「自己紹介はいい! なんだよさっきの大岩は! お前がやったのか!?」 アウス 「失礼な…。 まぁ、 地霊術だよ」 コロン 「霊術か…。 それにしても危なっかしいじゃないか… 地霊使い!」 アウス 「ア・ウ・ス!!」 ウィン 「じゃあぼくは風霊使い〜!」 アウス 「「霊使い」なんて呼ばれるの初めてだなぁ…」 ウィン 「ねぇねぇ、僕のことも呼んでよ〜「風霊使い」ってさぁ」 アウス 「それより、ジルウェートのことだけど…」 ウィン 「あっ、 ずるい…」 コロン 「ジルウェート? あぁ、オイラはウリエル様の使い魔なのさ」 ウィン 「使い魔?」 コロン 「そう。 今回の仕事はただ単に、バンテのジルウェートをウリエル様のところまで案内するだけなんだけどな」 アウス 「…………」 コロン 「本当に、ウリエル様はすごい人だよ。 何故バンテのジルウェートの使いをフォールのオイラにやらせるのかって、 それによって使い魔とジルウェートが仲良くなればそれは素晴らしいことだって言うんだ」 アウス 「はぁん…。 ウィン。 私たち、結構ツイてるじゃない」 ウィン 「タクヒに会ったのにねぇ」 コロン 「? 何がだよ」 アウス 「この子、ジルウェートよ」 コロン 「この子? どれ?」 ウィン 「ぼく」 コロン 「……。 このガキんちょが? オイオイ、ジルウェートは冗談にしていい話じゃないんだぞ??」 アウス 「「 突然の知らせ、まずお詫び申す。 この度、或所にて「神の選定」が行われた。我々の選定により、あることが決定した。 「スュード‐サリーポの町‐2丁目‐7 ウィン。貴方を、第二十一期 「ジルウェート」に任命する」… 神炎皇 ウリエル」」 アウスは、ローブのポケットに入っていた手紙を広げ、それをスラスラと読み上げた。 コロン 「な、な…」 飛び猫、改めデーモンビーバのコロンは、アウスの読み上げた手紙を急いで覗き見た。 コロン 「本物だ…。 で、そのウィンってのは…」 ウィン 「ぼく」 コロン 「……まじかよ…」 アウス 「っていうかあんた、ジルウェートの顔も知らなかったの? それじゃあ探しようがないじゃない」 コロン 「一体どういう基準で選んでるんだ三神は…」 アウス 「私と同じこと言ってる」 ウィン 「あのさぁ…。 あんまり人をバカにするのはよくないよ?」 コロン 「まぁ、仮にあんたをジルウェートだったとしよう」 ウィン 「ウィンでいいよ。 仮にじゃなくてもジルウェートだけど」 コロン 「仮に風霊使いをジルウェートだったとしよう」 ウィン 「仮にじゃなくて…」 コロン 「あんたらはこんなトコで何をしてるんだ?」 アウス 「何って… 旅」 コロン 「たび?」 アウス 「ウリエル神に会いに、クリミネル活火山に行くところなのよ。 あれ? ウリエル神はそこにいるのよね?」 コロン 「あぁ、そうだけど…でも それじゃあ…」 コロン 「オイラ要らなかったのかよっっ!!!!!」 アウス 「あぁっ、 うるさくするとクマが起きる…」 アウスの注意通り、クマの体が ピクッ と動き、気だるそうに立ち上がろうとし始めた。 ウィン 「アウスっ、クマさんが…」 アウス 「あ…」 つづく