一覧に戻る TOPに戻る

しゃこばな☆しゃあまん   第9話 エリアが風邪ヒータ


暗黙のルールがあった。 このルールは別に、破ってはいけないわけではなかった。 しかし、アウス以外の全員がそれを肝に銘じていることだった。 「アウスがいない時に病気はするな」 普段、アウスの健康的な食事を採っている彼女たちが、何かしら病気をするということはほとんどない。 しかし、どうしても避けられない病気もあるだろう。 今回のお話は、その「どうしても避けられない病気」の代表、「風邪」にかかってしまったエリアのお話である。 しかも、ただエリアが風邪を引いただけじゃない。 エリアが風邪を引き、治るまでの日にちを入れたその一週間、「アウスがいない」のだ。 何故いないのかというと、メルトの家の片づけをどうにか終了させ、アウスは次にヴェダの家に片づけに向かったからだ。 ヴェダの家は山奥で広い豪邸なため、行き帰りに二日、荷物を積むのに数日かかるらしい。 しかし、エリアウィンヒータを連れて行ったら一カ月はかかるだろう、ということで。 ドジで要領は悪いが根はしっかりしているメルトも、手伝いに行ってしまった。 …となると、そんなエリアを看病できる人間は、ヒータとウィンだけ ということになるが…。 ヒータ 「ギャハハハハ!!!」 エリア 「………」 ヒータ 「無様なもんだぜ、エリアさんよォ!」 エリア 「………」 ヒータ 「え? なんで? なんで風邪引いたの?」 エリア 「…頭いたい。 ウィン。 コイツをどっかやって…。」 ヒータ 「ギャハハハハ!! なんだその声! 誰のマネだよ!」 エリア 「喉痛いの…! しゃべらすな…!」 ウィン 「う、うん! ヒータ、あんまり騒ぐとエリア死んじゃうよ…。」 エリア 「死なないけど…、すこぶる気分悪いから…。」 ヒータ 「まぁ、風邪なんて寝てれば治るさ。 寝ろ寝ろ!」 エリア 「じゃあ出てけ…。」 ウィン 「ヒータ、出ていこう。」 ヒータ 「ギャハハハハ!! 風邪引〜いた〜♪ 風邪引〜いた〜♪」 エリア 「なんて遺憾な連中なの…。人が苦しんでるというのに…。」 自分のベッドで横になり、顔まで布団をかぶったエリア。 何故こういう時に限ってアウスがいないのか…。 アウスがいれば、ヒータとかの邪魔が入ってこないし、喉を通るおいしい料理も出てくる。 健康ならカップラーメンで我慢できるのに、それも今は喉が痛くて食べられない。 唾液を呑み込む度に、顔をゆがめたくなるような痛みが走る。 熱もあるようで、起き上がろうとするとめまいがする。 そして、熱で頭が暑いのと裏腹に体は寒い。 咳も出る。 最悪だ…。 まさに最悪。 最寄りの病院が遠い…。 この体調では、自転車に乗ってコケない自信ないし、歩いていける距離じゃない。 ヒータに二人乗りを頼む気にもなれない。 さっきまでギャハギャハ笑ってたヤローに下げる頭なんてない。 あぁ、これはきっとあれだ。 メルトの呪いだ。 メルトの耳をいじりすぎた。 メルトが風邪の菌でも召喚したんだ。   きっとそうだ。 ごめんメルト。  …なんて思ってみても、風邪はよくならないだろう。 ……………………………。 今、ヴェダの家にいるアウスに電話して帰ってきてもらう? …いやだから、ヴェダの家からここまでどれだけ距離があると思ってるんだよ。 アウスならきっと戻ってきて手厚い看病をしてもらえるだろうけど、それじゃあアウスは大変だし、ぞこまでアウスに甘えるのもどうかと思う。 …そう考えると、毎日毎日、掃除・洗濯・家事・親父全てを任せるのって甘えじゃないのか? となってくるが、そこまで私たちは独り立ちできる状態じゃない。 アウス〜、帰ってこいよ〜…。  …なんて思っても、戻ってくるはずはない… か。 …あ、考え事をするうちに、なんだか…。 エリア 「 …喉かわいた…。」 朝起きてこの重度の風邪に気づいてから水分というものを全くとっていない。 やばい。 気になりだしたらそこまで。 このまま水を飲まなかったらきっと死ぬ。 …。 でも、誰かを呼ぼうにも声が出ない。 がんばって声を出してもヒータやウィンに届く声は出ないかもしれない。 痛い喉だ。 どうせなら一発で声を届かせたい。 エリア 「…お〜〜い……。」 …声ちっちゃ…。 全力で出したつもりだったが、こんなんじゃ届くわけない。 こうなったらあれだ。       物力行使だ。 枕元にある漫画本を床に思いっきり叩きつける音で人を呼ぶ。 エリア 「ふんっ!」 バァン!!!!! !! あれ!? 思ったよりものすごくでかい音が出てしまった。 いい具合に表紙の「面」の部分が床に叩きつけられたようだ。 こんな音を出せばさすがに誰か来るだろう。       こない。 音、聞こえなかったのか?    いや、まさか。 あんな大きい音だ。 絶対聞こえたはず。 じゃああれだな。 この音が、「ヘルプミー」の信号として解釈されなかったんだな。 そうか。   そういうことか。 馬鹿だな、あいつら。 いやいやいやいや、それじゃダメなんだよ。 私は奴らを呼ばないとダメなんだよ。 これじゃ、結果ノットオーライだよ。 もういい。 自分で行く。 はじめからこうすればよかったじゃないか。 そうさ。  ヒータやウィンに私の命を預けるのが間違いだったのさ。 私は一人で生きていく。 私は、血を求めて這い回るゾンビのようにベッドから出た…… エリア「 あっ―――」    ビタァンっ!! エリア 「うべし!!!」 ……… ミスった。 コケた。 また軽く目まいがしたかと思ってそのまま動いたのが裏目に出た。 不意に床についた左手のひらがジンジンと痛んだ。 …何をやってるんだ私は。  どこがセレブリティだ。    最悪だ。 その時、私の部屋のドアが勢いよく開いた。 ヒータ 「お、おい! エリア。 すごい音したぞ!? 大丈夫か?」 おせぇよ!!! エリア 「あぁ…、何とかね…。」 ヒータ 「どうしたんだよ?」 エリア 「水をね、飲もうと…。」 ヒータ 「で、転んだのか?」 わ、 笑われる…。 またギャハハっ て笑われる…。 でも、ここで変な意地を張ってまた事を荒げるよりは真実を告げた方がまだいいだろう。 エリア 「そうよ。 めまいがしたの。 悪い?」 ヒータ 「そうか…。 無理するなよ。 何が飲みたい?」 え? いやいや、   え? ヒータ 「さっきからうるさいと思ってたけど…、なんだ、あたし達を呼んでたのか。」 聞こえてたのかよ。 ていうか、笑わないの? 笑うでしょそこは。 ヒータ 「 …とりあえず、ベッド戻れ。」 エリア 「うぉっ!?」 ヒータが私の背中と足に手をまわし、「よっ」といって持ち上げた。 そのままベッドの上に私を下ろし、布団をまたかけた。   …ちょ、 あんたねぇ… なんの承諾もなくこのあたしをお姫様だっこするなんて…。 エリア 「…10年早いわ…。」 ヒータ 「何が?」 エリア 「…別に。」 ヒータ 「ホレ、何が飲みたいんだ?」 …まぁ、いいとしよう…。 とりあえずこれで、H2O以外にも物が飲めることになったのだから。 自由になると人は、贅沢を言いたくなるもので。 エリア 「アウスが…、風邪引くと作ってくれる…奴…。」 ヒータ 「……ん?」 エリア 「ホラ、 …ハチミツの…。」 ヒータ 「作り方わかん…。   ………」 エリア 「無理…? 無理なら普通に紅茶で…」 ヒータ 「いいや、できる!!  待ってろよ、エリア。」 エリア 「…う、うん。」 そういってヒータは部屋を出た。  ものすげー不安…。 だって、「作り方わかん」まで言ってたじゃん。 完全にわかんないじゃん。 …そうか、電話でアウスに聞けばいいのか。 それだったら大丈夫だな。 まぁ、それだったら大丈夫なんだけど…。 ………………。 まぁ、ヒータがヴェダの家の電話番号を知っているかどうかは考えないでおこう。 アウスがヴェダの家の電話番号をメモってどこかに置いてあると思うけど、それをヒータが見つけられるかも、考えないでおこう。 もし作り方がわかったとしても、ソレどおりにヒータが作れるかどうかも、考えないでおこう。 ………。 それにしても、 ヒータの心配そうな顔なんて初めて見たわね。 絶対笑うと思ってたのに。  あぁ、私もきっと風邪でネガティブになってただけなのね。 そうよ。 もともとは私たち仲間じゃない。 それを、「邪魔」だとか「下げる頭はない」とか言っちゃってるわけだ。    これは皆に対して失礼だ。 ヒータもウィンも、それなりに私のことを心配してくれてるのよね。       うん。 でも、ヒータにだっこされた時にちょっと自分の顔の熱が上がったことに関しては、考えないでおこう。  ドアが開いた。 ヒータ 「できたぞぉ。」 エリア 「…作り方アウスに聞いた?」  ―――って、思いっきり不安を表に出す私、消えろ。 ヒータ 「あぁ、ちゃんと聞いたぞ。」 エリア 「へぇ…。」    やるぅ。 ヒータ 「ヴェダの電話番号のメモ探すの結構大変だったんだぞ。 電話帳のところにはないし、その周り全部探してもなくてさ。 最終的に受話機の裏よ。」 エリア 「受話器…。  受話器!!?  挟んであったってこと?」 ヒータ 「そうそう。 全く誰がやったんだか。」 たぶん…、 いや、間違いなくアウスだ。 何かあって、困った時にはヴェダの家に電話しろってことだろう。 アウスなりの気遣いだったのだろうが、最終的には裏目に出た、という結果。 まぁ、電話ができたのならそれでいいのだが。 ヒータ 「そんなこといいから、ほら、飲めよ。」 ヒータが差し出してきたコップには、なみなみと注がれた「ハチミツ茶(普通にメイプルティーでいいのだが、これは慣性の法則ということで)」。」 香りも見た目も、アウスが作るものと寸分違わない。 見た目と香りは。 大体、こういう時のオチは決まっている。 マズ過ぎて吐き出すが、純情な彼女の「飲んで飲んで」な眼に後押しされて全部飲み干す。 ――そんな一般的なオチを予想していた私は、ヒータのハチミツ茶を一口飲んで驚いた。 エリア 「おいし…」 声に出てしまった…。 アウスの作ってくれるものよりは、そりゃ幾分か劣るけど、青汁を飲むつもりで飲んだだけあってその差異は歴然。 正直、かなりおいしくて、なんのイガイガもなく喉を通りすぎていった。 ヒータ 「さっき、 …おいしい、 って言ったか?」 エリア 「言ってない。」 ヒータ 「じゃあマズイ?」 エリア 「…まずく… ない。」 ヒータ 「どっちだよ!」 なんか、  …ありがとう。 なんて思っちゃったよ。 ヒータに。 この私が。 そんなの、言えるはずはない。 ましてや、そう思った今の自分が異様に悔しい。 とりあえず私は、足りない水分を補充するためにハチミツ茶をがぶ飲みする。 ヒータ 「あぁ!! 味わえよバカ!!」 エリア 「………」 がぶ飲みするしかないんだ。 止めないでよ、ヒータ。 あぁ、いまさら、ヒータに恩を作ることの悔しさを感じるとは。 ヒータに看病されるようなキャラじゃないのよ、私は!! ヒータに優しくされて、素直に「ありがとう」なんて言えるキャラじゃ…。 ヒータ 「あ! このヤロ、全部飲みやがった!!」 エリア 「ごちそうさま!!」 私は、ヒータにコップを押し付けると、そのまま頭まで布団をかぶった。 …でも、ダメ。 何か言わないと。 ヒータに、「コイツはロクに礼も言えないような奴だ」なんて思われたくなかった。 ヒータ 「はい、お粗末さまでした!!! 全く、お前はいつでもそうだな。」  ヒータが部屋を出る。 エリア 「ヒータ!!!」 ヒータ 「ん?」 ……。 …。 エリア 「……あり…     …あ……」 ヒータ 「は?」 エリア 「……。     お…   …おかわり…。」 何をいっとるんだ私は。 ヒータ 「 …。 しょうがねぇな…。 わかったよ!」 ヒータは、いつものギャハギャハ笑いとは違う笑顔を見せてドアを閉めていった。 ……でも、きっとあれだよね。 さっきの「おかわり」はさぁ…。 「ありがとう」みたいな、 意味に…なる …よね?  なるって、絶対。 だから、いいんだ。 私はヒータにありがとうなんて言わなくて。 心の中でさぁ、ちゃんと… 感謝してるし…。 私も…、   ヒータがもし、風邪引いたり… 何か病気した時には…、       なんだろ。  ヒータと同じように…いや、それ以上。 それ以上にヒータのことを…。          しっかり看病してあげたい。 その時には、アウスに手出しはさせない。 私が、私の手でヒータの病気を治してあげたい。   それで、ヒータの病気が治った時に言えばいい。 エリア 「あのときの恩を返したまでよ。」 そうじゃなきゃ、私の立場がないじゃない。  しかし、ハチミツ茶のもう一杯持ってきたヒータの顔はもう、「ありがとう」と言われたかのように照れくさそうに笑っていた。 あの赤髪ギツネがなにを考えてたかは分からないが、妙に上から見られている気がして気に食わなかった。          ●後日談● アウス 「あの時は本当に驚いたよ。 エリアが風邪引いて死にそうだって。」 エリア 「別に死にそうじゃなかったけど…。」 アウス 「ヒータがハチミツ茶のこと教えてほしいって言ったけど、私が帰って看病しようかって言ったんだよ。」  あぁ、その可能性もあるんだったな。 アウスに私の風邪の話がいったら、そりゃアウスだもん、心配して帰宅してくる。 あれ、でも…。 なんでアウスは帰ってこなかったんだ? アウス 「ヒータが「あたしがやるからアウスは来るな」って言ってさぁ〜。」 エリア 「………。」 ヒータ 「わぁ!! よせ! そういうこと言うなアウス!!!」 エリア 「ふ〜ん…。 ヒータ、そんなに私の面倒見たかったのぉ…?」 ヒータ 「な、なんだよ。 悪いかよ。 ハチミツ茶何杯もおかわりしやがって!」 エリア 「ヒータちゃんは私のこと大好きなのねぇ〜。 抱きしめてあげようかぁ??」 ヒータ 「わ―――!! やめろ〜! このバカエリア!!」 エリア 「暴れちゃだめよ。 このバカギツネ。」 ヒータ 「は〜〜〜な〜〜〜せ〜〜〜〜〜!!!!!」 エリア 「 …この… バカギツネ…。」 おわり♪

一覧に戻る TOPに戻る